カルチュラル・アプロプリエーション
Cultural Appropriationというのは、ヨーロッパ文化圏外からの移民が多い欧米でヨーロッパ系の人々が、非ヨーロッパ系文化を表面的に真似して取り込む様子を批判的に称する表現です、、、
と書いてもなんのこっちゃ、とお思いでしょうか。
例えばこれとか、
これとか、
こういったカルチュラル・アプロプリエーション(長いので以後CAとします)行為を並べて怒るのが本日の意図ではありません。
上の写真2枚を見ても、背景にある文化的、歴史的な力関係とか差別関係を全く知らない宇宙人が見たら、なんとも感じないというか、他のファッションとどう違うのか、という話になります。
こういった行為が例えば上の写真ならば北米先住民の人々や北米におけるヨーロッパ系入植者による先住民への行為の数々や現在に至る差別的待遇の数々の問題を認識している人々が見て初めてその問題性が感じられます。
誰も問題に感じなければ良いという意味ではなくて、二つの文化圏の間が平等や平和の歴史を経ていないという背景に考えが至らなければ問題視されにくいということ。
最近はあんまり聞かなくなったように思いますが、数年前まではあちこちでこの問題に関する議論がされていました。
「他文化に憧れて真似しているだけなんだから問題ないはず」
「真似されるということは、褒められているということなんだから、怒るのはお門違い」
という考え方をする人や「髪型はどの文化の所有物でもない」などという人、「非ヨーロッパ系の人たちだって別の文化圏の真似をしたりしてる」とか、問題になる気持ちもわかるし、問題にしすぎて堅苦しいと反発する人たちの気持ちもわかる場合もあるし、なんだかはっきりしない問題です。
こういう話題になると「白人は差別が酷い奴らだ」というような発言をする非白人もいますが、その発言も差別的ですからね、差別という問題は伝染病みたいな性質を持っていますね。
CAはファッションだけではなく、知的財産、装飾品、宗教のシンボル(十字架など)音楽、言語、ダンス、などなど、何しろ自分のもの(自分が所属する文化圏のもの)ではないものを借りてきて使うことを指します。
北米メディアで批判されているパターンは基本的に、借りてくる側が歴史的、文化的に支配者・権力者側にいる存在であり、借りられる対象は彼らに支配され抑圧された側にあります。
だから、日本の歌謡グループが肌を黒塗りにして黒人ミュージシャンの音楽のスタイルを真似ていたことは、正確にいえばCAには当てはまらないのかもしれませんね。
上の写真で黒塗りにしている方々の後ろ側にいる方々の様子を見てもなんとも思いません。
黒塗りしてないから、とも言えますが、現代日本の人々の一般的な装いが西洋のスタイル「洋」服一辺倒になって久しい今、洋服は西洋のものだから勝手に着るなと言われても困ります。
西洋が日本に支配されたことがない以上、CAではないし、「洋服の方が動きやすいし合理性という面で優れているから普及したまで」という話。
ああでも、明治時代の華族とか総理大臣とかがヨーロッパ風の正装をしていた姿はちょっと滑稽なCAに見えますけれど。
前置きが長くなりましたが、今日はこの話について書きたかったんです。
食のCA.
食のCA第一人者はやはりジェイミー
この方、よそのエスニックのレシピを持ってきて「ちょっと」工夫してはそのエスニシティの人たちの怒りを買って話題を提供して知名度を保っているような部分がありますね。
自分の出身地のものをよその人が変な風にいじって、「こういう作り方なんですよ!こういうもんですよ!」みたいに公の場で定義し直すような行為は、やっぱり多かれ少なかれ反感を買うもの。
ジェイミー・オリヴァーさんは以前、ご自身のウェブサイトで西アフリカの米料理Jollof Riceにご自分のアイデアを追加して物凄い批判の嵐を巻き起こしたことがありますね。
彼が無神経なのではなくて、彼は有名で、しかもありとあらゆるエスニック料理に手を出しているからだと思いますが、今回の報道はジェイミーは直接関係なくて、スペインの地方政府が地元の料理の正統性を保持するための声明を発表したというお話。
パエリアはスペインのヴァレンシア地方が発祥の地だそうで、バレンシア州政府はこの料理が当地の伝統文化において重要な意味を持つことを宣言したとか。
In an eight-page announcement published in Tuesday, the government of Valencia, the birthplace of paella, declared the dish an item of cultural significance.
“Paella is an icon of the Mediterranean diet, because of both its ingredients and its characteristics as a representation of Valencian culture,” the announcement reads.
“All the ingredients used in its preparation – such as fish, meat, vegetables, the justly famous and healthy olive oil and the complete grain that is rice – are part of the Mediterranean diet.”
というわけで、パエリアにチョリゾ入れると美味しいよ!と提唱したジェイミー・オリヴァーの名前が記事の中で引き合いに出されているという次第。
政府発表の正式書類(PDF)はこちら(スペイン語の練習にどうぞ)
https://dogv.gva.es/datos/2021/11/09/pdf/2021_11298.pdf
私はスペイン語で8ページも読むスキルはないのですが、上のリンクの記事で元々アラブから紹介されたコメ料理だと知りました。
It also recalled how the dish was developed over the course of several centuries after the Arabs brought rice to Spain and the saffron trade began to flourish.
“The first reference to paella – or ‘Valencian rice’ – is to be found in an 18th-century recipe manuscript, which explains how it should be prepared and notes that the rice should end up dry,” the government explains.
米を持ち込んだアラブ人だって「イベリア半島に持ってったコメがとんでもない調理法されてる!」なんて衝撃を受けなかったとは限りませんし、文化って交流するうちに変化していくものだから、こんな書類作ったって変化はし続けるでしょうけれども。
パエリアは、絶対に米をかき混ぜてはいけないんだそうですよ