食いしん坊、北米でヴィーガンになる

北米で植物性食品を食べて強く生きる記録

チップという悪習・北米のレストラン業界 

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外国のレストランなどで食事をした日本の旅行者がまず最初に感じるのは「えーと、チップってどうするんだろう面倒臭いな〜」ということではないでしょうか。

 

その戸惑いと面倒臭い感覚、それは日本人に限ったことではありません。

日本で育っていようとアメリカに生まれていようとカナダに移民して住んでいようと、戸惑う気持ちは多くの人が感じていることです。

 

 

実際にこの嫌な習慣をやめようじゃないか、という動きはあちこちで巻き起こっているのですよ。

それでもしぶとく続いているのは、悪い習慣を変えるのがいかに難しいのか、という話でもあり、労働者にきちんと報酬を支払わなくて済むような土壌ができてしまっていたらいかに経営者は正当な対価を払わずに労働者を搾取し続けてしまうのか、という話でもあると思います。

経営者も苦しいですからね。

 

 
チップ文化の問題色々

日本ではレストラン労働者に対して、最低賃金のレベルを下回る賃金を支払っても良い、という法律はないと思います。

 

が、カナダやアメリカではこれは当然なのですよ。

 

チップという慣習の対象であるウェイターやウェイトレスの最低賃金は、一般の最低賃金より低く設定されています。

どこの州でも基本は同じだと思いますが、カリフォルニアに住んでいる義姉によると、カリフォルニア州ではウェイト・スタッフも最低賃金が15ドルだそうです。

でも一般的には給仕職は薄給です。

チップもらえるから、と。

 

 

お店によってチップの分配の方法は若干違います。

自分が担当したテーブルのお客さんが残していったチップが全て担当ウェイト・スタッフのポケットに入る店あり、全部まとめてマネジャーとかオーナーの采配でそれぞれのウェイト・スタッフに分配される店あり、厨房スタッフとウェイトスタッフとで分け合う店もあるみたいです。

厨房でも調理関係者はウェイトスタッフよりも時給が良いはずだから、それってどうなの、と思うのですが、そういうのもお店のやり方次第なんでしょうね。

 

ウェイト・スタッフの給料は、時給x働いた時間の合計なので、大した金額にはなりませんが、額面の収入の*%がチップとして現金で支払われているという前提で、その推測のチップに対しても課税されるというのがよくある州の課税パターンです。

 

お客として食事をした後のチップの計算の仕方は、基本的に税抜きのトータル金額の**%を支払う、という考え方です。

 

一度の食事での合計金額は朝食よりも夕食、単なる食事よりも酒類を一緒に注文する場合、ささっと食べてささっと帰る個人客よりも仲間同士や家族で集まってのんびりする人が多い週の後半や週末、と金額に差がありますから、同じような労働をしていてもチップの差が出てきます。

 

基本的には心付けという前提ですから、支払う側の財布事情や気分などによってもどれくらいもらえるものか確証がありません。

 

従って同じ時間数働いててもチップの稼ぎは公平ではないので、政府による憶測前提の課税ってちょっとひどいですよね。

 

日本でもそうですが庶民的な食堂とかファーストフード、チェーン店のレストランなどで給仕するのはバイトとかパートの人が主で、この仕事を自分のキャリアとしてずっと続けたい人はあまりいないのではないでしょうか。

立ち仕事だし、変なお客さんもたまに(しょっちゅう?)相手にしなきゃいけないし、重労働です。

 

庶民的な価格帯のお店にはやはり庶民が引き寄せられるわけで、柄の悪い人の割合も高級レストランよりも多い。

高級レストランだって嫌なお金持ちのお客さんは来るでしょうけれども、ウェイト・スタッフへの態度がラフになりがちなのは比較的経済的に低層な地域や店になりますし、そういう店にしか働き口が見つけられないのは、有色人種のシングルマザーというような貧困層の女性など、社会的な弱者が多いのも現実です。

 

お客さんが無茶なことを要求してきたり、触られたり差別的な冗談を言われたりしても、抵抗したり抗議したらチップが貰えなくなるかもしれないから我慢する、という現象はこうした背景のもとに起こります。

 

 

チップは置くべきなのか

チップは心付けだから、置かなくても違法じゃないのですが、そういう人はまずいないと思います。

 

タランティーノのレザボア・ドッグスという映画の朝食シーンで、その場にいた男たちがチップを一人ずつ出し合っているときに、「チップなんて払わない」と出し渋ったMrピンクに対して「こういう店で働いているウェイトレスは薄給で重労働してるんだ、かわいそうじゃないか、何セコイこと言ってるんだ」と強面の殺し屋たちがチップ文化の背景を説明しながら彼を非難します。

 

 

 

解放奴隷に報酬を払いたくない資本家たちに好都合なチップ制度

チップという習慣は1850年代頃、ヨーロッパに遊びに行ってきた金持ちがアメリカに持ち帰ってきたと言われています。

ヨーロッパのことなら「素敵、洗練されている、だってヨーロッパだもん」と受け止められるのは日本に限りません。

 

そしてこのチップの習慣は、都市化・近代化しつつあった当時のアメリカで、低賃金で働く工場労働者たちが食事をする食堂で働く黒人解放奴隷たちへのただ同然の報酬を補うシステムとして定着していったことでもわかるように、社会の弱者、被差別者たちの労働をきちんとした報酬の制度抜きに搾取できるシステムとして利用されるようになったわけです。

 

このリンクの記事は2016年のものですけれど、記事によると当時のアメリカのレストラン・ウェイトスタッフの最低賃金は2.13 ドルから 7ドルの間。

www.washingtonpost.com

 

上の記事の冒頭には、2013年にSlate誌に掲載されたジェイ・ポーター氏の記事からの抜粋(下記)がありますが、これ載せたら私の駄文なんか不要ですね、デリートしようかな。

 

Studies have shown that tipping is not an effective incentive for performance in servers. It also creates an environment in which people of color, young people, old people, women, and foreigners tend to get worse service than white males. In a tip-based system, nonwhite servers make less than their white peers for equal work. Consider also the power imbalance between tippers, who are typically male, and servers, 70 percent of whom are female, and consider that the restaurant industry generates five times the average number of sexual harassment claims per worker. And that in many instances employers have allegedly misused tip credits, which let owners pay servers less than minimum wage if tipping makes up the difference.

(研究によると、チップはサーバーのパフォーマンスに対する効果的な動機にはならない。また、白人男性に比べて、有色人種、若者、老人、女性、外国人に対するサービスが悪くなりがちな環境を作り出す。チップベースのシステムでは、白人以外のサーバーは、同じ仕事をしても白人のサーバーよりも収入が少ない。また、チップを払う人は一般的に男性で、サーバーは70%が女性というパワーバランスの悪さや、レストラン業界では労働者1人あたりのセクハラ請求件数が平均の5倍にも上ることを考慮する必要がある。また雇用主がチップクレジット制度*を悪用するケースが多く見られた。)*チップで差額を補うことにより、オーナーがサーバーに支払う賃金を最低賃金以下にすることができる制度

 

こんな悪習はなんとかして廃止にするべきだろうと思いますが、それまでお客としてできることは、きちんとチップを支払うということくらい。

あとは、チップ制度廃止の署名活動とかレストラント労働者の雇用条件の改善を公約に含めている政党をサポートするとか、それくらい。

 

 

財布へのダメージは

最近のものは知りませんけれども、10年くらい前の日本のガイドブックに10%と書いてあるのを見た覚えがあります。

戦後じゃないんだから、10%置いていかれたら、何が不満?と思われるでしょう。(北米の話)

 

 

会計時にカードを処理する端末で、決済に進む前に「チップをどうするか」と選択する画面が出ますが、ここで面倒くさくないように、15%にする、20%にする、自分で金額を入れる、などと選択肢が出てきてチップがいくらくらいになるのか判断しやすくなっているので助かります。

 

 

合計が100ドルになる食事をした場合は、100ドルプラス税金プラス20ドルをテーブルに置いて(端末に打ち込んで)爽やかに席を立つべし、なのです。

 

だから、財布から出すお金は140ドル程度になります。(ケベック州の場合)

えええ?100ドルだと思ったのに?

と感じるのは人情です。

 

でもそれが、外食するということ。(嫌ならサンドイッチでも買って食べていれば良い)

Mr.ピンクみたいなゴタクを並べるのはみっともない。

 

 

上記のワシントンポストの記事に載っていた外食産業における性差別に関する短いビデオも貼っておきます。

 

 

本日はいつにも増して長い記事に最後までお付き合いくださいまして、ありがとうございました。

 

日本にチップ制度は不要です。


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