週末のエインターテインメントに、I, Daniel Blake (Ken Loach 2016) を観ました。
公開された時から、観たい観たいと思っていたんですが、映画館に足を運ぶ習慣、頻度が落ちると本当に足が遠のくと言うか、、、ふと気がつくと公開から2年たってしまっておりました。
ケン・ローチといえば貧困、労働者の権利、ホームレス、などと言った社会問題を扱った作品で知られています。
この作品では、色々な意味で悪名高いイギリスの社会保障システムへの批判が、そのシステムによって踏みにじられている人々の姿を通して描かれています。
私はこの作品を観るまで知らなかったんですが、現在のイギリスの社会保障システム、政府に委託されたプライベート企業が運営しているんですね。
しかもアメリカ資本の。
ずいぶん前に、行政が供給する水道水を私営化する動きが日本にあるようですと書きましたが、水、ヘルスケア、社会保障、税金、、などの運営って、利益追及をすることが存在理由である「企業」に代行させてはいけないと思うんですけれどね。
病気、怪我、その他の理由で失業した人々が政府の保護を申請し、書類審査や面接などを経て保護を受給すると言うシステムはイギリスだけではなく日本にもカナダにも、平和な近代国家ならどこの国にでもありますよね。
保護の受給者が仕事に復帰するのを応援するために、無料で仕事に就くために必要な技能を身につけるコースを受給できるようなシステムがあったり、大学や専門学校の授業料への援助を出すシステムなどもあります。
どれも税金を使って行うことなので、システムが有効に機能して、受給者がきちんと生活でき、かつ就職して保護を必要としない状況に戻っていくのが理想ですが、受給者の中にはすぐには仕事に戻れない人もいるし、車椅子や特別の装置がないと仕事ができない、もしくは様々な理由で仕事には二度とつけない人たちもいます。
ずいぶん前にイギリスで人気だったテレビシリーズ、Shamelessでは、社会保障制度の裏をかいて働かずに上手いことやって生きている「怠惰で嘘つきで恥知らずな」社会の底辺に住む人々が面白おかしく描かれていました。
あそこまで酷い人ばかりではないかもしれないけれど、ああいう人たちが存在するのは確かで、私と夫の知り合いにも一人、ウェルフェアで生活する人生しか知らない人が一人います。
でも、そうじゃない人たちだって当然たくさん存在します。
仕事に戻りたくても戻れない人たちは、経済的にも苦労しますが、自尊心というか、システムを通して社会から卑下されていることを身にしみて感じては悔しい思いをします。
ウェルフェアや各種手当の受給者は皆嘘つきで怠け者で、国家予算を圧迫している社会のゴミだ、、、という見方は、保守派や富裕層の人々に多く見られる視点ですけれど、富裕層でなくても一生懸命働いて税金を払っている人から見たら、ウェルフェアや失業手当を受給して生活している人たちが疎ましく感じられる瞬間っていうのはないとは言い切れないと思います。
低賃金労働者で過酷な労働環境の中働いてるのに生活が楽にならない、というような状況の人々ならなおさら、そういう気持ちになるのも自然な流れかも。
でも、ワーキング・プアはウェルフェア受給者など手当をもらっている貧乏人を憎むのではなく、貧困から抜け出すことが困難な、現在の不公平な制度を作り富を独り占めする富裕層や政治家のやり方に疑問を持つべき。
貧富の差や、公正さに欠ける社会の制度などを改善するような政府を選ぶことができれば民主主義は機能するのでしょうけれど、選挙も民主主義も機能しなくなっているのかと思うような現象があちこちの国々で巻き起こっています。
Daniel Blakeのような、ずっと真面目に働いてきたのに心臓疾患を抱えてしまい仕事ができなくなってしまって、社会保障制度のお世話になることになった、、という立場に、自分がいつなるかもしれません。
それまでずっと税金を支払い続け、真面目に生きてきたんだから、こういう急場にシステムが機能して払い込んだぶんはせめて保証してくれるんだろう、と思いたいじゃないですか。
それなのに、システムはことごとく機能せず、理不尽な状況に陥る主人公やその周辺の人々。
この作品は問題を大げさに誇張しすぎているとか、真実とは程遠い、などという批判もありますが、それは主に保守派政治家だったり、Jobcentreのマネジャー(映画の中のマネジャーのモデルとなった方だとか)とか、まあそういう主張をするのも当然かなという人々。
The Guardian と The Independent 両紙に この映画は誇大妄想か現実を反映しているか、という記事がありましたので貼り付けておきます。
申請手続きがオンラインのみ、、、とか、コンピューター世代でない受給者にとってハードルが無意味に高いというのも避ければ避けられるはず。
何かと折につけ「それはオンラインで」って言われることで、どれだけの人たちがそのプロセスから除外されているか、気がつかないほどお役所の人たちはコンピュータ世代なのでしょうか。
私の職場には映画の中でDaniel Blakeがやったみたいに、マウスを持って画面に当ててしまうような方とか、緊張してしまってクリックができない(手がブレてしまう)人とか結構多くいらっしゃいます。
彼らに、リラックスして、こうやればいいんですよと教えようとしても、慣れてない人にとってはかなり大変な操作なんですよね。
なれてない人っていうのは、高齢な人たちだけじゃなくて、若くても社会の主流からはみ出してしまった人たちって、貧困の中で、コンピュータに接するチャンスなく、インターネットを契約するようなお金もなく暮らしてきた人たちって結構存在します。
あと、高齢の方になればなるほど、画面に表示されているページのその部分しか目に入らず、スクロールダウンとかできないんです。
そんなことを言ってる私だって、自分の老後には最先端なガジェットの扱い方がわからなくて若い子に教えてもらわないとどうにも手も足も出ない、、ってことになってしまうのかもしれません。
社会保障は、それこそ文盲の人だって盲目の人だってきちんと救われるシステムでなければ意味がないわけですから、コンピュータが使えないだけで排除されるようではダメですよね。
この作品、英国の実情は実際には知り得ませんけれども、自分の周囲にも当てはまることがなきにしもあらずだし、、、身につまされます。
でも良い作品だと思います。
老後、怖いわー。いや、まだ老後は先ですが、失業だって怖いですわ。