マスクとハグ、触れ合えないストレス
先日クライアントのケベコワ男性とズームミーティングの前に雑談していた折に、自宅にいるのでマスクをしていない彼が、職場で複数の人たちと同じ室内空間にいてマスクをしている私を見て、「マスクを見ると悲しくてやりきれない」とこぼしました。
彼は重度の糖尿病などがあり、感染してしまうと重症化するリスクがとても高いため、ロックダウンが始まって以来ずっと、住んでいるアパートメントの建物から一切出ることなく生活しています。
食料品も医薬品も何もかもデリバリーで。
孤立した生活を七ヶ月も続けていることによるメンタルヘルスへの影響ははかりしれません。
彼のマスクに関するコメントは、ただ「マスクがいや」ということ以上の意味を持っているわけですが、彼が一番辛いと感じていることは、ウィルスの感染予防のために各国が施行している「人と人の間に物理的な距離を確保」し「人が家族や友人の家を行き来したり集ったりする機会を制限」されること。
普段の生活において家族や友人たちと気軽にハグしたりキスしたりできなくなってしまったことです。
一人で暮らしている人の場合、これは結構切実。
同居していない場合は例え血の繋がった家族であっても2メートルのフィジカル・ディスタンシングが義務付けられていて、しかも9月に感染者数が再び増加し続けたのを受けて、再び「同居していない人々が室内や屋外でで集まること」に制限がかかり、禁止になりました。
七ヶ月前までは、友達や家族の家に遊びに行けばまず「元気?」なんて言いながら両頬にチュッチュっとエアキス(本当にキスする人もいる)していたケベック人たち。
オンタリオやイングリッシュ・カナダ出身の人たちの多くはハグハグ。
イタリアに生活の拠点があるヤマザキマリさんの記事に、人と触れ合う挨拶の習慣と脳への働きについて触れられていました。
日本の一般的な習慣では、挨拶するたびに握手したりハグしたりキスしたりはしませんよね。
私は子供の頃、ハグする子供だったのですが、親に「もう赤ちゃんじゃないんだから、そろそろやめようね」と何度か言われ、そのうちハグのない親子関係になったのを覚えています。
ヤマザキマリさんの記事にも触れられていますが、ハグしたりキスしたり、親しい人同士寄り添うことで気持ちが落ち着く効果は確実にあります。
家族や他者と触れ合ったり寄り添ったりするのは猿のグルーミングと同じ行為で、この“触れ合い”によって脳内で作動する神経細胞が苦痛を和らげるエンドルフィンを誘発し、ストレスを大幅に軽減しているのだという。人間がいちいちハグしたり頰にキスをしたり腕を組んだり頭を撫でたりするのは、あれは霊長類としての本能に結びついた仕草なのだ。
...(中略)....
だとしたら、子供が成長すると親子同士でも滅多に触り合うことのない日本人は、一体どうやって日常のストレスを解消しているのだろう、という疑問も湧く。
最後の「疑問」の部分がちょっと気になりますが。
日本では、ちょっと親しくなると冗談など言うたびに笑いながらバシーンと背中を叩いてくる人がたまにいた覚えがあるのですが、あの人たちは触れ合いを求めていたのかな。
日本以外の文化圏に暮らす人々の多くは、現在、感染の恐れというストレスに加えて親しい人と触れ合えないというストレスも感じているのですね。
そして、慣れ親しんだ習慣をグッと我慢させられていることの象徴が、人々の顔を半分覆っているマスクなのかもしれません。
日本の習慣
パンデミック宣言以来、政府の公衆保険衛生機関が口を酸っぱくして言うようになった予防対策は「手を洗いましょう」「マスクをしましょう」「2メートルのフィジカル・ディスタンシングを守りましょう」です。
これって、昔から家に帰ると母親が言うセリフ「さあさあ、手を洗いなさい、うがいしなさい」を思い起こすなあ、と。
「うがい」は鼻や口から進入したウィルスを洗い出すことにどれほど効果があるのか不明だからなのか、はたまた「うがい」を全くやったことのない人に教えるのは大変だから効果が証明されないうちは無駄だと判断されたのか、誰も言い出しませんけれど。
家に帰ったら即手洗い(とうがい)外出先ではマスクをせよ、、、の習慣が日本で広まったのはいつ頃からなのでしょうね。
ひょっとしたら100年ちょっと前のあのスペイン風邪の頃あたりだったりして。
そうだとすると、その習慣がずっと根付いていると言うのもすごいですが。
そしてこの先、COVID19のパンデミックが去ったあと、世界中の人たちは帰宅したらすぐ手洗い、とか、冬場は公共の場ではマスクして予防に努めましょう、とか、定着するかしら。
定着しないかもね、に座布団5枚。